シュルレアリスムは、西洋美術史におけるひとつの流れです。
アート初心者でも親しみやすいシュルレアリスムについて、詳しく知りたい方は多いと思います。
今回は、シュルレアリスムについて詳しく解説するとともに、手法や代表作家を紹介します。
1.シュルレアリスムとは
シュルレアリスムは、日本語で「超現実主義」といい1924年から始まりました。
フランスの詩人アンドレ・ブルトンによって提唱され、同年には「シュルレアリスム宣言」という著書を出版しています。
当初は、美術と文学をメインとした前衛的な表現スタイルを指していました。
その後、アート全般に用いられるようになり、絵画や映画、文学、ファッションに至るまで、様々な分野で浸透しています。
シュルレアリスムの根元には、精神科医フロイトの「夢分析理論」があり、意識の奥底にある無意識の欲望を表現することを意味する表現方法です。
例えば、夢の世界や理性ではコントロール不可能な世界などが表現されます。
1-1.シュルレアリスムと禅
シュルレアリスムでは、「無意識の中にこそ本質がある」という考えのもと作品が制作されています。
さらに、現実にはあり得ないものや夢の世界に出てくる光景と現実とが混ざり合う状態を否定しません。
無意識下に追いやった過去の経験やトラウマがあれば、否定してしまうだろうという考え方があります。
つまり、捉われている過去の出来事を表面化して、全てを包み込み許すという点がシュルレアリスムの特徴です。
まさしく仏教でいうところの「禅」の教えに通ずる考え方といえるでしょう。
実際、シュルレアリスムは「禅」と合わせて紹介されることもあります。
2.シュルレアリスムの手法
シュルレアリスムの手法は「無意識を描く」「無意識に描く」の2パターンに分類されます。
それぞれの手法について詳しくみていきましょう。
2-1.無意識を描く方法
無意識を描くとは、夢で見た景色や想像上のものを表現することです。
例えば、同一キャンバス内に「太陽を二つ」「昼と夜」など、一度に存在するはずのないものを描くケースが挙げられます。
また、自動筆記という手法も、無意識を描く方法のひとつです。
テーマを用いて描くのではなく、「描くこと」を意識せずに思いつくままに素早く描き続けることを表します。
表現されたものは支離滅裂になりますが、独創的な作品に仕上がる点が特徴です。
2-2.無意識に描く方法
無意識に描くとは、異なる素材を組み合わせて表現する「コラージュ」や絵の具を垂らす「ドリッピング」といった手法です。
例えば、ドリッピングの場合、垂れた絵の具の行方はコントロールできません。
このように、作者の意図を介さない方法を取り入れて表現する点が特徴です。
3.シュルレアリスムの代表作家
シュルレアリスムは、世界各国の画家に影響を与えました。
続いては、中でも著名な5名を紹介します。
3-1.サルバドール・ダリ
スペインを代表する画家として多くの人に知られるサルバドール・ダリもシュルレアリスムを取り入れた作家のひとりです。
ダリの作品には、両極端なモチーフが登場することが多く、それらは無意識と意識を表現しているといわれています。
例えば、彼の代表作である「記憶の固執」は、溶けたような時計をモチーフにした作品です。
キッチンでカマンベールが溶ける様を見た体験から、「進んでいく時間」と「溶けていくカマンベール」が同じように見えたといいます。
3-2.マルク・シャガール
ユダヤ人画家として20世紀を代表するマルク・シャガールもシュルレアリスムを用いて表現しています。
「色彩の魔術師」ともいわれるシャガールは、油彩や水彩、パステルなど複数の画材を使い、色彩豊かな作品を手がけていました。
97歳で亡くなるまでの間、シュルレアリスムだけでなくキュビズムや象徴主義など数多くの作品を残しています。
中でも、シャガールの初期作品「私と村」は、ファンタジーな世界を感じられる作風になっており、彼の中のシュルレアリスムが芽生えているといっても過言ではありません。
しかし、本人はシュルレアリストと呼ばれることを嫌っていたといいます。
3-3.ルネ・マグリッド
ルネ・マグリッドは、ベルギーの画家です。
シュルレアリスムを主な表現方法としており、実際は起こり得ない状況を描く「デペイズマン」という手法が高く評価されています。
1930年以降は、奇抜な表現が少なくなり、どちらかといえば「だまし絵」的な作品が増えていますが、生涯をかけてシュルレアリスムの思想を忠実に表していました。
彼の代表作「ゴルコンダ」は、街並みの中に黒いオーバーコートをきた男性を無数に描いた作品です。
男性は宙に浮いた状態で描かれており、不気味な印象を持つ方も多いでしょう。
一見するとどの男性も同じような出で立ちに見えますが、実はそれぞれ異なった特徴を持っています。
群衆化による無個性を表している作品です。
3-4.古賀春江
日本で初めてシュルレアリスムを用いた作品を描いた画家が古賀春江です。
1895年に福岡県で生まれた古賀春江は、中学を中退したのちに状況し太平洋画会研究所で学びました。
本名は「亀雄(よしお)」でしたが、1915年に僧侶となり僧籍に入ったことで名前を「良昌」呼び名を「春江」としています。
1917年に二科展で初入選を果たし、1922年には二科賞を受賞しました。
1929年に発表された「海」は、シュルレアリスムの表現を取り入れたとして一躍脚光を浴びた作品です。
3-5.三岸好太郎
1903年に札幌市で生まれた三岸好太郎は、戦前のモダニズムを率いた作家の一人です。
わずか31歳という若さでこの世をさりますが、晩年はシュルレアリスムを用いた作品を制作しています。
例えば「のんびり貝」という作品は、貝をモチーフにした夢幻的な光景を描いている点が特徴です。
三岸好太郎は、この作品と同様の蝶と貝をモチーフにした作品を複数描いていますが、一連の作品をたった10日間で仕上げています。
そして、作品を独立展に出店したのち、夫人と「貝殻旅行」に出向いた帰りに持病に倒れ生涯を閉じました。
4.まとめ
今回は、シュルレアリスムにスポットを当て、概要や手法、代表作家を紹介しました。
シュルレアリスムは禅にも通ずる思想を表現した美術の流れです。
一見すると不可思議に感じる作品ですが、社会や政治に対するメッセージ性の強さもあり鑑賞者に考えさせる不思議な力のある作品ともいえるでしょう。
シュルレアリスムを用いた作品は、様々な美術館で取り扱っているため比較的身近な存在です。
シュルレアリスムの作品を通して、自分自身にもある無意識な状態を再認識してみてはいかがでしょうか。
無意識と意識の両方を許すことで、新たな世界が広がるかもしれません。