アメリカのアーティストとして独自のスタイルを確立したジャクソン・ポロック。
抽象表現主義ムーブメントを牽引した人物でもありますが、彼が描く絵のすごさはどこにあるのでしょうか。
今回は、ジャクソン・ポロックの絵がすごい理由を解説するとともに、代表作もご紹介します。
1.ジャクソン・ポロックとは
ジャクソン・ポロックは、1912年にアメリカ・ワイオミング州で生まれたアーティストです。
幼い頃からアートに親しんでいたといい、10代の頃にはすでにジャクソン・ポロックの特徴でもある無意識の元に表現されるアートの意味を追求していました。
特に、1930年代に夢中になった心理学者のカール・ユングは、ジャクソン・ポロックに大きな影響を与え、代名詞でもある絵画技法「ポーリング」が生み出されたのもこの頃です。
また、パブロ・ピカソの代表作「ゲルニカ」にも衝撃を受け、その作風を超越する技法を生み出そうと葛藤したことも、ジャクソン・ポロックが描く絵のスタイルに影響しました。
しかし、当時のジャクソン・ポロックは、アルコールに依存しており問題を起こすこともあったといいます。
こうした状態を治すために入院をしていた時期、アートコレクターのペギー・グッゲンハイムが運営する画廊と契約をしたことがきっかけとなり、独自のアクションペインティングが誕生しました。
当時のアート界において異端ともいえる技法は、高い評価を得ていましたが、「絵の具とぶちまけただけのアート」と批判されることも少なくありませんでした。
一時は、作品制作に注力したことからアルコールを絶っていたジャクソン・ポロックですが、ドキュメンタリー映画の撮影依頼を受けたことを機に、またもやアルコール漬けの日々が始まってしまいます。
抽象主義のトップランナーとして走っていたジャクソン・ポロックにとって、周囲から受けるプレッシャーは凄まじいものがありました。
その結果、アルコール依存症により入退院を余儀なくされ、最終的には飲酒運転を起こし44歳という若さでこの世を去ります。
2.ジャクソン・ポロックの技法
ジャクソン・ポロックの大きな特徴は、「アクションペインティング」という技法を使ったことです。
アクションペインティングとは、身振りをしながら絵の具を飛び散らせたり垂らしたりして作品を描く方法で、ジャクソンポロックをはじめとする抽象表現主義者によって作り上げられました。
一般的に、絵画は完成した作品の仕上がり具合を重視しますが、アクションペインティングで大切にされるのは過程です。
アクションペインティングには、主に「ドリッピング」と「ポーリング」の2つの技法があります。
ドリッピングは、床にキャンバスを置き、その上から絵の具を垂らして描く手法です。
一方、ポーリングは絵の具を流し込むことで線を描く手法で、いずれも無秩序に思われがちですが、実は一定のリズムを刻みながら描かれます。
ジャクソン・ポロック自身は、「筆は筆としてではなく棒として用いる」と発言しており、絵の具が垂れる場所や絵の具の量は完璧に制御されている点が特徴です。
3.ジャクソン・ポロックの絵がすごい理由
ジャクソン・ポロックの絵は、一見すると絵の具が飛び散っただけのように感じられます。
そんな彼の作品が高く評価されているのはなぜでしょうか。
その理由として、以下の2つを解説します。
3-1.一定のリズムで描かれている
前章でも触れたように、ジャクソン・ポロックが用いた技法である「アクション・ペインティング」は、闇雲に絵の具を垂らして描いているわけではありません。
絵の具を飛び散らせたり垂らしたりするだけであれば、誰でもできるように感じる方も多いでしょう。
しかし、アクションペインティングは、人間が持つイメージに囚われるのではなく、一定のリズムを刻みながら正確に描く技法です。
つまり、いくら飛び散った絵の具が何かのモチーフに見えたとしても、そこから広げることなく淡々とリズムを刻んでいく必要があり、非常に高い集中力が求められます。
3-2.どこを切り取っても均一
一定のリズムで規則正しく描かれたアクションペインティングの作品は、どこを切り取っても均一になっています。
例えば、イメージに頼って描いた絵は、中心や周囲にモチーフが偏ったり、どこか一点にスポットが当たるように描かれたりしているケースがほとんどです。
しかし、アクションペインティングの場合、中心と周縁に差が生まれず、均等に絵の具が撒き散らされています。
そのため、どこを見ても均一に見える点が大きな特徴です。
このように画面全体を均一に仕上げる方法を「オール・オーヴァー」といいます。
4.ジャクソン・ポロックの代表作品
ジャクソン・ポロックは、短い人生の中で多くの人を魅了する作品を残しています。
続いては、代表作を3つ見ていきましょう。
4-1.壁画
ジャクソン・ポロックがアクションペインティングを生み出すきっかけとなったアートコレクター、ペギー・グッゲンハイムは彼のパトロンでもありました。
彼女から依頼されて描いた作品が「壁画」です。
自宅の玄関を飾るために描かれた作品で、そのサイズは2.47m×6.05mもあります。
しかし、思うように制作が進まず、ストレスからアルコールに頼るようになっていたため、引き渡しが予定されていた前日まで一筆も描かれていませんでした。
作品が完成したのは、実に当日の朝だといわれており、いかにジャクソン・ポロックが無意識の世界を大切にしていたかが伝わります。
現在「壁画」は、アメリカ・アイオワ州にあるアイオワ大学美術館が所蔵しています。
4-2.男と女
アルコール依存症だったジャクソン・ポロックが、治療の一環として描いた作品が「男と女」です。
1942〜1943年に制作され、1943年11月にはパトロンだったペギー・グッゲンハイムの画廊で開かれた個展で展示されました。
この作品には、パブロ・ピカソやジョアン・ミロの影響が色濃く反映されているほか、ユングの概念も描かれています。
右側に描かれた黒い部分が男性、左側の曲線を用いた部分が女性を表しています。
アクションペインティングが完成する以前の作品ですが、その端々からドリッピングの技法が垣間見えるでしょう。
現在「男と女」はフィラデルフィア美術館が所蔵しています。
4-3.五尋の深み
ジャクソン・ポロックが、ドロッピングやポーリングを用いて描き始めた当初の作品です。
「五尋の深み」というタイトルは、シェイクスピアの作品「テンペスト」に出てくる台詞から付けられたといわれています。
寝付けなかった夜に、近所の森や浜辺を歩きながら時間を過ごしていたというジャクソン・ポロックの体験を踏まえて「悩ましい夜」を表現しているそうです。
作品の中には、絵の具チューブのふたや鍵、タバコの吸い殻といった絵の具以外のものが埋め込まれており、ピカソのコラージュに影響されていることがわかります。
現在「五尋の深み」は、ニューヨーク近代美術館が所蔵しています。
5.まとめ
今回は、抽象表現主義を牽引し、独自の制作スタイルであるアクションペインティングを確立したアメリカのアーティスト、ジャクソン・ポロックを紹介しました。
一見するとランダムに描かれた絵に見えますが、その本質はイメージに囚われることなく一定のリズムで絵の具を垂らし、無意識の元に生まれる作品です。
ジャクソン・ポロックが影響を受けたパブロ・ピカソやユングの思想を踏まえて今一度作品を見てみると、より深く知ることができるでしょう。
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