クリムトの代表作「接吻」は、アートファンのみならず世界中の人が目にしたことのある絵画のひとつです。
ロマンティックな絵画の象徴でもありますが、本当の意図を知らない方も多いのではないでしょうか。
今回は、クリムトの「接吻」が意図することを解説するとともに、評価される3つの理由にも触れていきます。
1.クリムトとは
クリムトは、ウィーン最大の画家と呼ばれ19世紀末から20世紀後半にかけて活躍しました。
父親は彫刻師であり、幼い頃から芸術に触れていたことが想像できます。
14歳になったクリムトは、博物館付属工芸学校にて石膏像のデッサンや古典作品の模写などを学びました。
その後、劇場装飾に携わり、建築装飾画家として名を馳せるようになります。
父と弟が亡くなったことを受けて、一時的に制作活動を中断するものの、1896年に制作を再開しました。
この頃になると、クリムトの代名詞ともいえる官能美を表現する技法が確立していたといいます。
しかし、クリムトの官能美は当時の美術界には受け入れられませんでした。
そのため、公的な仕事を失うことになりますが、それでもクリムトの名声は保持されたままで、多くの富裕層が彼のパトロンとして彼を支えました。
いわゆる黄金期と呼ばれる時代で、「接吻」も同時期に描かれています。
2.クリムトの代表作「接吻」が評価される3つの理由
クリムトといえば誰もが「接吻」を思い浮かべるほど浸透している作品ですが、どうしてここまで評価が高いのでしょうか。
その理由として3点を紹介します。
2-1.超現実を表現
ひとつめの理由が、クリムトの「接吻」は超現実を表現している点です。
超現実とは、実際に肉眼で捉えられる情景を超えた表現を意味します。
クリムト以前の西洋美術では、目の前の情景を平面的に表現する作風「写実主義」が主流でした。
また、19世紀後半には写実主義が少し進み、雰囲気を表現する「印象派」の表現が登場します。
それでもまだ、見たままの風景を表現する点は変わりませんでした。
一方で、クリムトが表現する超現実は、肉眼で捉えたものを超えて、心の動きまでも表現しています。
クリムトの作品以降、1920年には「シュルレアリスム(超現実主義)」として受け継がれ、ルネ・マグリットやサルバドール・ダリなどが作品を残しています。
クリムトが表現する超現実の大きな特徴は、絵の中に装飾を取り入れたことです。
また、接吻では丸や四角などのモチーフを用いて、目には見えない感情や雰囲気をデザインしています。
2-2.官能的な美しさを表現
クリムトの「接吻」といえば、誰もが心を奪われる官能的な美しさでしょう。
クリムトは、「接吻」に限らず女性をモチーフにした作品を多数描いています。
線だけで描かれた素描だけでも3,000点を超える作品が残されていますが、その大半が裸の女性です。
アトリエには、複数人の女性を待機させていたといい、クリムトにとっていかに女性が魅力的な存在であったかが伝わります。
改めて「接吻」を見てみると、男性と女性が描かれているものの、女性に焦点が当たっている点が特徴的です。
男性は、女性を引き立たせるために描かれており、まさしく「装飾」といえるでしょう。
2-3.金箔を使った表現
クリムトが「接吻」を描いたのは、前述したように多くのパトロンからサポートを受けた黄金期です。
こうした背景もあり、「接吻」では装飾として金箔を用いています。
当時の美術界では、装飾は絵画や建築などの大芸術と比較して格下の小芸術に分類されていました。
しかし、クリムトは装飾が持つポテンシャルを見出し、さらには金箔を用いることで超現実の世界観をより印象的に表現しています。
3.クリムトの「接吻」が意図すること
クリムトの「接吻」のモチーフとなった人物については、詳しい記録が残っていません。
しかし、クリムト自身と彼が生涯愛したパートナーであるエミーリエ・フレーゲではないかといわれています。
二人はプラトニックな関係性だったとされており、多くの女性モデルと肉体関係を持っていたクリムトにとって、殊更に重要な人物がエミーリエだったのではないかと考察するアートファンも少なくありません。
その理由として、クリムトは、「女性の官能的な肉体美を愛する心」と「女性の精神性を崇める心」をそれぞれ独立して持っていたと考えられている点が挙げられます。
現実世界で、双方の気持ちを一致させることができなかったクリムトにとって、絵画表現は肉体に対する愛と精神性を崇拝する心を一致させられる唯一の手段だったのでしょう。
つまり、「接吻」はクリムトが持つ精神性を深く表した作品といえます。
4.クリムトの「接吻」を鑑賞できる場所
クリムトの「接吻」は、現在ベルヴェデーレ宮殿オーストリア絵画館に収蔵されています。
同作品は、完成した年の1908年に開かれたウィーンの総合芸術展「クンストシャウ」に出展されたのち、オーストリア政府によって買い上げられました。
以降、オーストリアの国宝的存在として大切に扱われており、国外に出ることは許可されていません。
「接吻」以外のクリムトが描いた作品は、日本でも美術館や巡回展などで鑑賞できますが、「接吻」はオーストリアのみで見られる貴重な作品です。
5.クリムトの作品が日本で鑑賞できる場所
「接吻」を含め、クリムトが残した油彩作品はさほど多くありません。
そのため、日本でクリムトの作品を鑑賞できる場所は限られています。
日本で鑑賞できる美術館のうち2つを紹介します。
5-1.愛知県美術館
愛知県美術館に収蔵されているクリムトの作品は「人生は戦いなり(黄金の騎士)」です。
この作品を描いた当時、クリムトは大学講堂の装飾壁画に関するスキャンダルに見舞われ、世間からの冷たい評価を矢面に立って受けていました。
この絵画に描かれる黄金の騎手は、ウィーンの芸術が変わろうとする分岐点における中心的存在となっていたクリムトそのものであるといわれています。
以降、官能美を描き続けたクリムトにとって、最後のマニフェストとなった作品です。
5-2.豊田市美術館
豊田市美術館に収蔵されているクリムトの油彩は、「オイゲニア・プリマフェージの肖像」です。
オイゲニア・プリマフェージは、裕福な銀行家の妻であり、クリムトのパトロンでした。
この作品を依頼したのは、オイゲニア・プリマフェージの夫であるオットー・プリマフェージです。
クリムトの晩年描かれた作品で、鮮やかな色彩から当時の美術様式がよく表現されています。
豊田市美術館には、同作品以外にも素描作品が数点収蔵されています。
6.まとめ
今回は、クリムトの名作「接吻」について掘り下げてみました。
官能的な作品で知られるクリムトですが、その背景には深い精神性が見てとれます。
肉体に対する愛と女性の精神性に対する崇拝の心の両面を踏まえて「接吻」を鑑賞すると、より深く楽しめるのではないでしょうか。
Artisは、現代アート、日本画、彫刻などさまざまなアートの買取サービスです。
経験豊富なスタッフによる査定が受けられるので、安心してご利用いただけます。
お手持ちの作品を売却したいと検討している方は、一度査定を受けてみてはいかがでしょうか。
詳しい査定方法については、下記のページをご覧ください。