東京を拠点に活躍する現代アーティスト磯村暖。
社会問題を届けるべく作られる彼の作品は、多くのアートファンの心を捉えています。
今回は、磯村暖の経歴や代表作について詳しく解説します。
1.磯村暖とは
磯村暖は1992年に東京で生まれました。
幼少期より絵を描くことが好きでしたが、その一方で喘息に悩まされており体調の悪さから小学6年生で不登校になります。
将来を思い描くような気力すらなく、次第に絵を描くこともできなくなっていました。
こうした状況を打ち破ろうと、13歳という若さでオーストラリアへ単身留学を果たします。
この経験がきっかけとなり、喘息の症状が落ち着き「生きている」感覚を得られるようになったそうです。
高校入学を機に帰国し、当初は医師を目指して勉強を始めます。
しかし、小さい頃から親しんだアートに対する思いが大きくなり、受験したのは多摩美術大学でした。
見事一発合格を果たし、翌年には東京藝術大学を受験。
こちらも審査員の満票を獲得した末に合格しました。
その後、心置き無くアートに携われるようになり、多くの展覧会を開催します。
2019年には、Asian Cultural Councilから助成を得て、ニューヨークに半年間滞在。
帰国後も精力的に制作を続けています。
1-1.磯村暖の作風
磯村暖の作品には、社会問題が大きく反映されています。
中でも、一様に「悪」のレッテルを貼る傾向にある社会に対する批判を表した作品は磯村暖の代名詞といえるでしょう。
こうした社会を地獄や亡者などのモチーフを用いてユーモラスに表現しています。
また、LGBTQや移民、迫害、差別といった人権問題のほか、土着信仰や宗教などを緻密にリサーチしている点も磯村暖の特徴です。
絵画に限らず、彫刻や映像、インスタレーションなど様々な手段でアート表現を手がけています。
2.磯村暖の代表作
続いては、磯村暖の代表作を2点紹介します。
2-1.地獄の猛者像
2016年以降、精力的に取り組んでいる作品が「地獄の猛者」シリーズです。
タイの現代仏教美術から発想を得て制作される作品で、2016・2018・2019・2020と4作発表されています。
中でも、2018年に発表した作品は、タイの地獄を表現したお寺「ワットパイローンウア寺院」にて僧侶と話し合いながら制作されたものです。
2-2.恋人たちの為の紙紮(婚姻届)
こちらは、2017年にレジデンスアーティストとして台湾に滞在した際に生まれた作品です。
台湾は、アジアで初めて同性婚の合法化が可決された国ですが、その背景には同性カップルの悲しい事件がありました。
台湾人とフランス人のカップルだった二人は、35年もの間連れ添いますが台湾人男性が亡くなってしまいます。
しかし、同性婚が認められていなかったことから、フランス人男性は医療に関する意思決定や遺産相続への関与ができませんでした。
その結果、フランス人男性も自殺してしまうという痛ましい事件です。
この事件により同性婚法可決に向けた動きが高まり、2017年に可決されます。
「恋人たちの為の紙紮(婚姻届)」は、同性婚法可決のきっかけとなった二人のために作られた作品です。
3.まとめ
今回は、現代アーティスト磯村暖について解説しました。
一見すると無秩序にも見える彼の作品ですが、その根底には緻密にリサーチされた情報が投影されています。
自身の体験も踏まえながら、様々な表現方法で制作を続けており2021年からは美術作家の海野林太郎とのインスタレーション作品も展開。
新たな作風や表現にも挑戦しており、今後も注目していきたい作家のひとりです。