現代アートは、社会情勢や課題を反映させ、見る人に問題提起をする作品と定義されています。
技術やリアリティを追求する伝統的なアートとは異なり、思想やコンセプトなど目には見えない事柄を表現する点が大きな特徴です。
そのため、枠に捉われず前衛的で「かっこいい作品」も多数みられます。
今回は、かっこいい現代アートの中から、おすすめしたいアーティストを15名選出しました。
かっこいい現代アートを鑑賞したいという方は、ぜひ参考にしてください。
1.バンクシー
現代アートの中でも異端児といわれているのが、イギリスを拠点として活躍するストリートアーティストの「バンクシー」です。
スプレーを使って壁に描く手法をメインとしており、世界中に彼のストリート・アートが分散していますが、誰も本当の姿を知らないという点でも大変注目されています。
1-1.バンクシーの代表作
バンクシーといえば、2018年にサザビーズオークションで起こった「シュレッダー事件」を思い浮かべる方も多いでしょう。
この年に出品された彼の代表作でもある「Girl with Balloon(風船と少女)」が、落札とともにシュレッダーにかけられたという出来事です。
実は、額縁にあらかじめシュレッダーが仕掛けられており、裁断自体が演出のひとつでした。
とはいえ、会場が騒然となったのは言うまでもありません。
バンクシはーこの作品を通して、投機を目的とし、お金が積まれるだけのオークションビジネスに対する批判を表したといわれています。
裁断された作品は、「Love is in the bin(愛はゴミ箱の中へ)」と改題され、1,850万ポンド(約29億円)という非常に高い価格で落札されました。
2.白髪一雄
白髪一雄は、戦後の前衛的アート集団「具体美術協会」の中心メンバーとして知られています。
幼少期から絵に親しみ、京都市立美術専門学校に進学。
卒業後には、天井から吊るされたロープにつかまりながらダイナミックに作品を描く「フット・ペインティング」という独自の手法が注目され世界的に高く評価されています。
具体美術協会でも、パフォーマンス・アートの先駆けとして数々の作品を残しました。
具体美術協会が解散したのちは、比叡山延暦寺で得度するほど密教にのめり込み、作品にも密教の精神性が投影されています。
2008年に亡くなった後も、彼の作品は多くの人に感動をもたらしています。
2-1.白髪一雄の代表作
白髪一雄の代表作のひとつとして挙げられるのが「臙脂(えんじ)」です。
スターバックス創始者であり、アートコレクターとして知られるハワード・シュルツのオフィスに飾られています
TV番組でハワード・シュルツのオフィスが取り上げられた際に、「臙脂」が映り込み話題となりました。
表題の通り、臙脂色のみで描かれている白髪一雄らしいダイナミックな作品です。色の重なり具合によって黒みを帯びている部分もあり、独特な妖艶さを感じます。
3.KAWS
KAWSは、ニューヨーク生まれの現代アーティストです。
10代の頃からストリートアート界で頭角を現し、現在はブルックリンを拠点に活動しています。
KAWSといえば、目を「×」で表現した「コンパニオン」というシリーズを思い浮かべる方も多いでしょう。
世界的に有名なキャラクターも、独自の作風を踏まえて表現しており、土台となるキャラクターファンも虜にしています。
グラフィックアートだけでなく、アパレルやトイ雑貨、彫刻など垣根を超えて広いジャンルで活躍している点も特徴です。
3-1.KAWSの代表作
KAWSの代表的な作品「コンパニオン」が世界中を旅するというコンセプトで繰り広げられている企画が「KAWS: HOLIDAY」です。
2019年7月18日〜24日まで、富士山麓の「ふもとっぱらキャンプ場」にも登場したことから、日本でも大きな話題となりました。
同会場ではキャンプもできるということで、大自然とKAWSの作品とを一度に堪能できる贅沢な企画でした。
このように、アート以外の要素と組み合わせることで、アートに関心が低い人に注目させる点もKAWSの作品が持つ魅力と言えるでしょう。
4.キースへリング
世界のポップアート界を牽引するアーティストのひとりに挙げられるのがキースへリングです。
1980年代初めにニューヨークの地下鉄で「サブウェイドローイング」と呼ばれるグラフィティ・アートを始めたことで注目を集めるようになりました。
その後、グラフィティ・アートだけでなく舞台デザインやグッズ販売など、様々なシーンで活躍し世界的に高い評価を得ています。
1988年にはエイズに感染していることが発覚し、翌年にはエイズ予防啓発や子供たちの教育プログラムに関する資金提供を目的として財団を立ち上げました。
1990年に31歳の若さで亡くなりますが、彼の思いは現在も引き継がれています。
4-1.キースへリングの代表作
キースへリングの代表作として外せない作品が「Radiant Baby(光り輝く赤ん坊)」です。
キースへリングが幼少期を過ごした家に描いたことがきっかけで生まれた作品で、人間に内在する「純粋さ」を表現したといわれています。
この作品をモチーフにしたグッズは、日本を含む世界中で人気となっており、アートに興味がない方でも目にしたことがあるでしょう。
5.アンディウォーホル
アンディーウォーホルは、ポップ・アートの巨匠として、知らない人はいないほど著名なアーティストです。
20世紀後半を代表するアーティストとして、87歳で亡くなるまでたくさんの作品を残しました。
彼の作品の特徴といえば、ドローイングだけでなく、シルクスクリーンや写真、映像、版画など様々なメディアが使われる点です。
また、彼の制作スタジオには、ハリウッドセレブやストリート系、脚本家、ドラッグクィーンなどジャンルを超えた人々が集まっており、彼自身も様々な業界で活躍しました。
現在の美術市場でも非常に評価が高く、ほとんどの作品が常に高価格で取引されています。
5-1.アンディウォーホルの代表作
アンディウォーホルといえば、マリリン・モンローのポートレートをモチーフにした作品「Shot Sage Blue Marilyn」を思い浮かべる方が多いでしょう。
1964年に作成されたシリーズのひとつで、クリスティーズオークションにて約2億ドル(約253億円)もの高値で落札されたことで話題となりました。
20世紀のアーティストとして最高値だった点も注目を集めた理由です。
また、シルクスクリーンで作成された同シリーズのオリジナルは世界に5点しかなく、非常に貴重な作品でもあります。
6.ダミアンハースト
ダミアンハーストは、イギリス出身の現代アーティストです。
イギリスのアーティストグループ「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)」の一員であり、美術界でも高い評価を得ています。
彼の作品は「死」をテーマにしており、動物の死骸を用いたような過激な作品も少なくありません。
そのため、作品によっては物議をかもすことがある点でも注目を集めるアーティストといえるでしょう。
6-1.ダミアンハーストの代表作
ダミアンハーストの中でも有名な作品が「The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living(生者の心における死の物理的な不可能性)」です。
イタチザメを丸ごとホルマリン漬けにした作品で、世間に強烈なインパクトを与えました。
動物愛護団体やその他のアーティストからの批判も多い作品ですが、50歳以下のイギリス人アーティストに贈られるターナー賞の候補にもなっています。
7.杉本博司
杉本博司は、ニューヨークを拠点に活躍する写真家であり、現代アートも手がける作家です。
コンセプチュアル・アートの影響を色濃く受けた彼の作品は、視覚的な表現というよりもメッセージや哲学に重点が置かれています。
2001年のハッセルブラッド国際写真賞をはじめ数々の賞を受賞しており、2017年には文化功労者に選出されました。
また、2018年にはベルサイユ宮殿で開かれる展覧会の招聘(しょうへい)作家に選ばれています。
7-1.杉本博司の代表作
杉本博司の原点であり、代表作のひとつが「Polar Bear」という作品です。
アメリカ自然史博物館に展示されているジオラマを写した作品ですが、「どんな虚像でも、一度写真に撮ってしまえば、実像になるのだ」という彼の言葉通り、まるで実物を撮影したかのように感じられます。
「写真は真実を写すもの」という一般的な概念を覆す作品であり、彼のテーマのひとつである「真実」を深く表現している作品といえるでしょう。
8.ゲルハルトリヒター
ゲルハルトリヒターは東ドイツに生まれ、幼少期をナチス支配下の元で生きたという経験を持つ現代アート界の巨匠です。
御年91を数える現在も注目を集めており、2022年には日本で16年ぶり、東京では初となる個展が開催されました。
油彩画や写真、ガラスなど様々な素材を通して、「人間が物を見る」ということを表現し続けています。
「ドイツ最高峰の画家」とも呼ばれているゲルハルトリヒターは、今もなお精力的に作品を作り続けており、今後の活躍も期待されるところです。
8-1.ゲルハルトリヒターの代表作
1960〜1970年代に作成された「カラーチャート」シリーズのひとつ「4900の色彩」です。
当初は、画材店にある色見本を元に描かれていました。
ゲルハルトリヒターは、フランスの画家「マルセル・デュシャン」が登場して以来、レディメイド(既製品)ばかりであるという考えを持っており、カラーチャートシリーズは、デュシャンをオマージュした作品と言われています。
9.空山基
近年、アート界のみならずファッション界でも注目を集めている現代アーティストが空山基です。
美しい女性の曲線美とメカニカルなロボットとを組み合わせた作品が代表的で、CDジャケットや広告などでも多数採用されています。
人気アーティストやインフルエンサーの中にも彼のファンが多いほか、有名ブランドとのコラボレーションも展開しており、世界的な知名度を上げる要因のひとつとなっています。
9-1.空山基の代表作
東京・渋谷で開かれた「女優はマシーンではありません。でも機械のように扱われます。」展で展示された作品です。
彼自身が敬愛するマリリンモンローをモチーフにしており、彼女が発した実際の言葉を展示のタイトルにしています。
彼の作品は、見る人を驚かせる要素が多分に入っている点が特徴で、この美しきマリリンモンローの作品にもタブーを逆撫でするような表現が取り入れられています。
10.名和晃平
名和晃平は、オリジナリティ溢れる作風の現代彫刻家として国内外で名を馳せています。
いわゆる「彫刻」とは異なり、「PixCell(ピクセル)」という独自の概念を取り入れた表現をしている点が特徴です。
PixCellとは、Pixel(画素)とCell(細胞・器)を組み合わせた造語で、様々な素材を使いながら彫刻に新たな視点を取り入れています。
そのほか、生命と宇宙、感性とテクノロジーの関係を踏まえ、重力を活用して描かれるペインティング「Direction」や泡が巨大に拡大していく「Foam」など彫刻の定義を超えた柔軟な作品を生み出してきました。
近年は、建築やパフォーマンスにも表現の場を広げており、ますます注目される現代アーテイストです。
10-1.名和晃平の代表作
名和晃平の「PixCell」シリーズの中でも著名な作品が鹿をモチーフにしたものです。
本物の剥製を土台にしており、大小様々な球体が表面を覆っています。
一見すると宝石のように輝いて見えますが、現代の情報化に関するメッセージが含まれている作品です。
私たちの生活は、スマートフォンやパソコン、テレビなどからの情報が溢れている一方で、リアルな物に触れる機会が減っています。
PixCellシリーズは、土台となる剥製そのものに触れられないばかりか、実際に見ることもできません。
あくまでも球体のレンズを通して見るだけとなり、現代社会とリンクする表現となっています。
11.井田幸昌
井田幸昌は、近年、様々な海外オークションで高値がつき、注目されている若手現代アーティストのひとりです。
1980年鳥取県で生まれた井田幸昌は、彫刻家である父の影響で幼少期よりアートに囲まれる生活をしてきました。
東京藝術大学に進学後、国内外で個展を開催し、その頭角を現します。
2022年には、スペインのMuseo Casa Natal Picassで展覧会を開いており、アジア人初ということもあって大変注目を集めました。
2023には、故郷である鳥取と京都で国内初の美術館における展示「井田幸昌|パンタ・レイ―世界が存在する限り」が予定されており、今後もますます目が離せないアーティストです。
11-1.井田幸昌の代表作
井田幸昌の作品は、「一期一会」をコンセプトに二度とない「いま」を現しています。
中でも、現代芸術振興財団主催の「CAF賞」において名和晃平賞を受賞した「The end of today」シリーズの一枚は大変高く評価されました。
このシリーズは、1日で描き上げている点が特徴で、CAF賞に出品された作品以外にも多数描かれています。
12.キネ
キネは、福岡県を拠点に発信し続ける現代アーティストです。
大学時代に日本画を学んでおり、その作風をストリートアートに落とし込んだ独特の世界観で人気を博しています。
2018年11月に開かれたSBIアートオークションでは、予想価格をはるかに上回る500万円超えで取引されました。
日本国内ではバンクシーを超える作家ともいわれており、今後の活躍も大いに期待されます。
12-1.キネの代表作
キネといえば、どこか物憂げな表情をしている女の子をモチーフにした作品が特徴的です。
「KYNE girl」とも呼ばれ、現代を反映するアイコンとして福岡から世界へと広がっています。
こちらの作品は、人気雑誌「Casa BRUTUS」の表紙に採用されたもので、100枚限定のシルクスクリーン作品としても販売されました。
13.山口歴
山口歴は、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動する現代アーティストです。
7歳から西洋画を学び、グラフィティやポップアートからも影響を受けたといいます。
制作当初より、ブラシストローク(筆致)の持つ可能性に注目しており、「カットアンドペースト」という独特の技法を用いた作品が特徴です。
近年は、UNIQLOやナイキといったブランドとのタイアップのほか、チャリティ活動も積極的に行っています。
13-1.山口歴の代表作
山口歴の代表作として挙げられるのが「OUT OF BOUNDS」シリーズです。
ブラシストロークにより一層フォーカスした作品で、「固定概念・ルール・国境・境界線の越境、絵画の拡張」というコンセプトのもとに表現されています。
キャンパスという枠を超えて描かれており、非常にダイナミックで山口歴自身も「自分の中のブレイクスルー的な作品」と語るほど重要視されている作品です。
14.ドルク
ドルクはノルウェーの最も有名なアーティストのひとりです。
彼はバンクシーに影響を受けて、20代半ばからストリートアートを始めました。
一般的な現代アーティストより遅咲きではありますが、その作品はすぐに完売するほどの人気ぶりです。
2015年に、ストリートアートを引退し現代アートへ転向しており、それまでの作風とは大きく異なる作品を展開しています。
14-1.ドルクの代表作
ノルウェーの国旗で口を覆った少年の姿が印象的な「Vandal all grey」は、ドルクの代表作のひとつです。
RIOTシリーズのひとつで、中でも強い存在感を発揮しています。
シルクスクリーンで作成されており、発売と同時にサーバーがダウンするほど注目を集めました。
15.バックサイドワークス
福岡を拠点に活動するバックサイドワークスは、本名や年齢、経歴などが非公開となっている謎多き現代アーティストです。
顔出しもしていませんが、知名度は着実に高くなっており、アートオークションでは予想を上回る高値を叩き出しています。
日本のオタク文化やストリートカルチャーに傾倒しており、「ヒロイン」をモチーフとした作品が特徴です。
単に可愛い女の子を描くのではなく、観る人を「主人公」として主人公と共にストーリーを作り上げられる存在として「ヒロイン」を描いているといいます。
15-1.バックサイドワークスの代表作
バックサイドワークスの作品は、大手予備校である「河合塾」のキービジュアルに採用されたことから広く知られるようになりました。
この作品をきっかけに、多くのアートファンの心を掴み、近年は少年雑誌「ジャンプ」とのコラボレーションでも注目を集めています。
16まとめ
今回は、かっこいい現代アートに注目して15名のアーティストをご紹介しました。
現代アートというと「難しい」「理解しがたい」といった印象を持つ方も少なくありません。
しかし、「かっこいい」というシンプルな理由であれば、現代アートへのハードルが下がります。
アパレルや企業とタイアップした作品を発表しているアーティストも多く、より現代アートが身近な存在になりつつあるでしょう。
まずは、こうした身近な「かっこいい」作品から現代アートに触れてみてはいかがでしょうか。