シュルレアリスムを代表する作家の1人がポール・デルヴォーです。
幻想的かつ官能的な作品で知られ、日本でも作品を展示している美術館が複数あります。
今回は、ポール・デルヴォーの概要を解説するとともに代表作や、作品が見られる場所も紹介します。
1.ポール・デルヴォーとは
ポール・デルヴォーとはどのような人物だったのでしょうか。
ここでは彼の人生を振り返りながら、概要を解説します。
1-1.画家への目覚め
ポール・デルヴォーは、1897年にベルギーのリエージュ州で生まれました。
弁護士だった父親と音楽家として活躍した母親の長男であり、非常に裕福な環境でした。
しかし、デルヴォーに対する母親の愛情は異常なものがあり、過度に束縛されていました。
そんな母親の影響もあり、幼少期は音楽に傾倒していましたが、22才の頃に画家のフランツ・クルテンスと出会ったことをきっかけに画家を目指し始めます。
その後、徐々に個展を開き、少しずつ活躍の場を広げていきました。
1-2.運命の女性
32歳の頃に出会った女性アンヌ=マリード・マルトラール(タム)と恋に落ちますが、当然のごとく母親は大反対します。
結果的に、彼女との恋は諦めたデルヴォーでしたが、別れた後も彼女をモチーフにした裸の女性を描き続けました。
36才の頃、母親が急死したこともあり、40才でシュザンナ・ピュルナルと結婚します。
この頃から、デルヴォーはシュルレアリスムの画家として知られるようになりました。
順調に画家としての道を歩んでいたデルヴォーに転機が訪れます。
50才になった頃、愛し合いながら別れたタムに再会したのです。
この出会いは、2人の想いを確固たるものにし、55才で前妻と別れタムと再婚しました。
1-3.執着したモチーフ
タムをモチーフにした裸の女性を描き続けたデルヴォーですが、そのほかにも多くのものに執着していました。
例えば、汽車やローマの街、骸骨などがそのひとつです。
55才を過ぎた頃には、タムと再婚したこともあり裸婦をほとんど描かなくなりました。
その代わりに骸骨をメインに取り入れるようになり、「キリストの受難」をテーマにした骸骨モチーフの作品が多数登場しています。
1-4.晩年
シュルレアリスムの代表的な画家だったデルヴォーですが、晩年にはシュルレアリスム特有の不調和を避けるようになりました。
一方で、神秘的で幻想的な雰囲気のある作品を多く描いています。
その理由として、作品の根本にあった「不安」が変化し、「美」を描きたいと思ったことが挙げられます。
これまでに描いてきた裸婦や建築物などが調和され、光り輝く神秘的な作品が描かれるようになりました。
デルヴォーが85才の頃、彼の作品を納めたポール・デルヴォー美術館がベルギーに設立されます。
92才の頃には、最愛の妻タムが亡くなり、これを機にデルヴォーは画家として作品を描くことをやめました。
彼自身は、それから4年後の96才でこの世を去っています。
2.ポール・デルヴォーの代表作
ポール・デルヴォーは、長い画家人生の中でさまざまな作品を残しています。
その中から、3つの代表作を紹介します。
2-1.海は近い
ポール・デルヴォーの作品の中でも大作とされているのが「海は近い」です。
そのサイズは、実に2メートル近くあり、作品から醸し出される幻想的な雰囲気に圧倒されます。
デルヴォーの代名詞でもある裸婦が複数人描かれ、その中央上には満月が明るく輝いている様子が印象的です。
また、裸婦を照らす明かりや古代神殿をイメージさせる建築物が、時が止まったような不思議な空気感を演出しています。
2-2.森の目覚め
1939年に制作された油彩作品が「森の目覚め」です。
当時のポール・デルヴォーは、ジョルジョ・デ・キリコやサルバドール・ダリ、ルネ・マグリッド等に感化され、シュルレアリスムの作品に注力するようになっていました。
この作品にもその傾向が大いに現れており、幼少期に読んだジュール・ヴェーヌの小説「地底旅行」に出てくるエピソードをモチーフにしています。
小説の中に登場する巨大キノコの森を女性の森に置き換えて描いた作品で、原始的な森と裸婦をリンクさせているとされています。
2-3.ジュール・ベルヌへのオマージュ
「ジュール・ベルヌへのオマージュ」は、ポール・デルヴォーが1971年に描いた油彩作品です。
デルヴォーは、幼少期よりジュール・ベルヌの小説である「地球の中心の旅」を頻繁に読んでいました。
その影響から、作品の中にも小説の主人公が度々登場しており、デルヴォーの特徴である裸婦と合わせて描いています。
「ジュール・ベルヌへのオマージュ」は、題名の通りデルヴォーにさまざまなインスピレーションを届けてくれたジュール・ベルヌへの賛歌であり、彼にとって大切な作品の1つだったことが伝わるでしょう。
3.ポール・デルヴォーの作品が見られる場所
ポール・デルヴォーの作品は国内外で見られます。
ここでは作品を所蔵している美術館を3つ紹介します。
3-1.ポール・デルヴォー美術館
ポール・デルヴォーの故郷であるベルギーにある美術館です。
デルヴォーの生涯と作品を展示する施設で、1982年にポール・デルヴォー財団によって設立されました。
日本からは遠く離れた場所ですが、ポール・デルヴォーを堪能したいという方にとって一度は訪れて見たい場所といえるでしょう。
3-2.埼玉県立近代美術館
埼玉県浦和市に位置する埼玉県立近代美術館にも、ポール・デルヴォーの作品が所蔵されています。
代表作のひとつである「森」が常設されており、日本にいながらデルヴォーの魅力を存分に感じられる施設です。
3-3.姫路市立美術館
姫路市立美術館のある兵庫県姫路市は、ベルギーのシャルルロワ市と姉妹都市です。
こうした背景もあり、姫路市立美術館ではデルヴォーが制作した版画の多くを所蔵しています。
随時、所蔵作品を一堂に会した企画展を催しており、じっくりとデルヴォーの作品を堪能したい方におすすめです。
4.まとめ
今回は、幻想的な作風で知られるシュルレアリスムの画家ポール・デルヴォーを紹介しました。
母からの度を超えた愛情を受けた彼ですが、数奇な運命により生涯愛した女性タムと結果的に添い遂げながら、さまざまな作品を生み出しています。
タムと離れていた期間に続けて描かれた裸婦をはじめ、建築物や骸骨などデルヴォーを象徴するモチーフは多岐にわたり、いずれも見るものを不思議な感覚へと誘うものです。
日本国内でもデルヴォーの作品を見られる場所が複数あるので、一度訪れてみてはいかがでしょうか。
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