不思議な世界観を表現した絵画で多くのアートファンを魅了するルネ・マグリット。
哲学的であり、目に見えるものが全てではないと教えてくれるような作品たちは、どのようにして生まれたのでしょうか。
今回は、ルネ・マグリットの人生や世界観を解説するとともに、代表作も紹介します。
1.ルネ・マグリットの人生
ルネ・マグリットの作品には、彼自身が体験してきた人生が影響しています。
幼少期から没後に至るまで、彼の人生を振り返っていきましょう。
1-1.幼少期
ルネ・マグリットは、1898年にベルギーで3人兄弟の長男として生まれました。
母親は帽子屋の店員、父親は仕立て屋であり、ルネ・マグリットの絵画に紳士的な要素が垣間見えるのはこうした背景があったからではないでしょうか。
1910年頃には美術の教育を受け始めますが、1912年、ルネ・マグリットが13才の年に母親が入水自殺をしてしまいます。
遺体となった母親の顔にかけられた布は、幼少期のルネ・マグリットに大きな影響を与えました。
この経験が、彼の代表作となる「恋人たち」に描かれた顔を布で覆った人物に表現されています。
1-2.結婚
ルネ・マグリットは、幼馴染のジョルジェット・ベルジェと1922年に結婚しました。
二人の間に子供はいませんでしたが、犬や猫など多くの動物たちと暮らしていたといいます。
閑静な地に暮らし、穏やかに見えた二人の生活ですが、マグリットはパフォーマンスアーティストのシーラ・レッジと浮気をしていました。
また、妻であるジョルジェットも詩人ポール・コリネと深い関係に陥っていましたが、それでもルネ・マグリットとジョルジェットの夫婦関係は最後まで続いています。
1-3.パリ時代
1926年、それまで壁紙工場や看板デザイナーとして働いていたルネ・マグリットに転機が訪れます。
ブリュッセルのギャラリー・サントールと契約を結ぶことになったためです。
専業画家となったルネ・マグリットですが、彼が描いていたシュルレアリスムを継承した作風は批評家からの評判がよくありませんでした。
この結果に失望したルネ・マグリットとジョルジェットは、前衛的な芸術に理解のあるパリに移住します。
その後、サルバドール・ダリやジョアン・ミロなど、ルネ・マグリットと同じシュルレアリスムを追求する芸術家たちと交流しました。
彼らと共同で作品展示をするなど充実した日々を過ごしていましたが、その生活は長く続くことはありませんでした。
その理由は、経済的なものだといわれており、1930年にはベルギーに戻っています。
1-4.第二次世界大戦
ベルギーに戻った後も、画家としての人生は順調だったルネ・マグリット。
しかし、第二次世界大戦によってその流れが一変してしまいます。
ベルギーはナチスの占領下になり、自由を奪われたためです。
こうした背景もあり、彼は名画の贋作の制作を始めます。
戦後には偽札まで作っていたという話もあり、生活に困窮していたことがうかがえます。
数奇な運命に翻弄されたルネ・マグリットですが、晩年はシュルレアリストへ回帰し、「大家族」や「光の帝国」といった名作を描き上げました。
2.ルネ・マグリットの世界観
ルネ・マグリットの作品を鑑賞する上で大切なポイントが、彼の持つ世界観です。
ここでは「シュルレアリスム」と彼が持つ「哲学」にスポットを当てて紹介します。
2-1.シュルレアリスム
シュルレアリスムとは「超現実主義」と訳される芸術運動です。
1924年にフランスの詩人アンドレ・ブルトンによって提唱されました。
20世紀最大とされる影響力を持ち、ルネ・マグリットも大いに影響を受けた人物のひとりです。
現実世界をさらに突き詰めた表現であり、「無意識の世界」や「心の奥底にある欲求」、「人知では到底知り得ない世界」など、意識ではコントロールできない領域を形にしようとする芸術家たちが、シュルレアリスムに傾倒しました。
2-2.哲学
ルネ・マグリットの名作に「イメージの裏切り」という作品があります。
これは、パイプをモチーフにした作品ですが、その下には「パイプではない」という文字が描かれており、見るものを困惑させます。
これは、あくまでもパイプのイメージを描いたものであり、作品そのものはパイプではないという意味を表した作品です。
このように、ルネ・マグリットの作品には哲学的要素が含まれたものも多数見られます。
3.ルネ・マグリットの作品
ルネ・マグリットは、多くの名作を残しています。
その中から、3つの代表作を見ていきましょう。
3-1.大家族
1963年に制作された、ルネ・マグリット晩年の名作です。
曇り空の海岸沿いを背景に、真ん中には大きな鳥が描かれています。
周囲の薄暗さとは対照的に、鳥には青空が書き込まれており、非常に印象に残る作品です。
タイトルの「大家族」とはかけ離れたモチーフに見えますが、これはルネ・マグリットが頻繁に用いていた「言葉」と「言葉が持つ内容」に相違を生み出す技法であり、タイトルとは異なるモチーフを用いて、鑑賞者のイメージを膨らませることをサポートしています。
一説には、大家族の連帯感を鳥で表現しているともいわれています。
「大家族」は、現在「宇都宮美術館」に所蔵されており、気軽にルネ・マグリットの世界観を体感できる作品のひとつといえるでしょう。
3-2.光の帝国
「光の帝国」も、「大家族」と同様にルネ・マグリットの人生における後期に描かれた作品です。
「光の帝国」は全27作のシリーズで制作されており、いずれもキャンバスの下半分が夜、上半分が昼をモチーフとしています。
一見すると矛盾する要素ですが「昼と夜が共存することで鑑賞者を魅了する」とルネ・マグリット自身は述べています。
また、ルネ・マグリット自身、昼と夜の両方に関心があり、どちらか一方に関心が偏っていなかった点もこのシリーズに投影されている思想です。
「光の帝国」の中でも大作となったのが、1953年から1954年にかけて描かれた8作目でした。
実に縦のサイズが2mを超え、多くの人の注目を集めた作品でもありました。
3-3.恋人たち
布で顔を覆われた男女が口づけを交わす不思議な作品です。
恋人をモチーフにした作品は西洋美術史において多数存在しており、ルネ・マグリットはこうした誰もが取り上げる表現をあえて題材とし、顔を隠すことで鑑賞者に不穏なイメージを与えようとしました。
前述したように、ルネ・マグリットは幼少期に入水自殺によって母を亡くしています。
引き上げられた遺体の顔にかけられた布は、ルネ・マグリットの心に深く刻まれトラウマとなりました。
この経験が元となり、ルネ・マグリットの作品には「恋人たち」と同様に顔に布をかけた人物が頻繁に登場しているといわれています。
ただし、ルネ・マグリット自身は母親の死というトラウマが作品に影響を与えたという事実を否定しており、彼が亡くなった今、真実は闇の中です。
4.まとめ
今回は、ルネ・マグリットの不思議な世界観について、彼の人生や作品を通して紐解いていきました。
哲学的要素が多く、鑑賞者を深い精神の世界へと導いてくれる作品たち。
ルネ・マグリットの死後も、多くの人が彼の作品に魅せられています。
日本にも彼の作品を鑑賞できる美術館があるので、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。
Artisは、現代アート、日本画、彫刻などさまざまなアートの買取サービスです。
経験豊富なスタッフによる査定が受けられるので、安心してご利用いただけます。
お手持ちの作品を売却したいと検討している方は、一度査定を受けてみてはいかがでしょうか。
詳しい査定方法については、下記のページをご覧ください。