現代のデザインにも通ずるハイセンスな作品を数多く残しているミュシャ。
中でも「椿姫」は、当時のフランスでも大変注目を浴びた作品です。
今回は、ミュシャの代表作「椿姫」について詳しく解説します。
1.ミュシャとは
ミュシャは、1860年にチェコで生まれた画家です。
19歳でウィーンに渡り、演劇の舞台装置の制作を手がける工房に勤めながら、夜は絵画教室に通いデッサンを学んでいました。
長い下積み時代が続いたミュシャですが、1894年に転機が訪れ、一躍有名なアーティストへと躍り出ます。
そのきっかけとなったのが、パリの人気女優だったサラ・ベルナールの舞台「ジスモンダ」のポスターでした。
以降、舞台関係の美術担当はもちろん、煙草用の巻紙やシャンパンなど、様々な商品のポスターを手がけています。
こうした功績が広く知れ渡り、ミュシャは19世紀末からヨーロッパで始まった美術運動「アール・ヌーヴォー」を代表するアーティストとなりました。
1-1.線の魔術師
ミュシャの作品といえば、優雅で美しい曲線を思い浮かべる方も多いでしょう。
様々な太さの線を駆使し、平面でありながら奥行きを感じさせるデザイン。
また、モチーフを線で囲うことで際立たせる技術など、当時も多くのファンを唸らせていたことが伝わります。
この特徴から「線の魔術師」と称され、現在でもデザインやイラストの模範となるほどです。
1-2.浮世絵の構図
ミュシャが活躍した当時のパリでは、「ジャポニズム」と呼ばれる日本文化が流行していました。
中でも、芸術家たちに大きく影響したのが浮世絵です。
ミュシャも例外ではなく、ポスターの構図に浮世絵のアイディアを巧みに取り込んでいます。
実際、ミュシャの作品に描かれる女性や植物は、どことなく浮世絵の美人画を想像させるでしょう。
2.ミュシャの代表作「椿姫」とは
ミュシャは、人気のきっかけとなった作品「ジスモンダ」以降も数々の代表作を残しています。
そのひとつ「椿姫」も、「ジスモンダ」と同じくサラ・ベルナールから依頼された作品でした。
2-1.舞台「椿姫」
「椿姫」は、1896年に開催された同名の舞台を宣伝するために制作されました。
この舞台は、高級娼婦であるマルグリッドと貴族の青年アルマンの悲しくも美しい純愛が描かれた作品で、ミュシャのポスターにも主人公マルグリッドの切ない胸の内が表現されています。
大きく描かれたマルグリッドの髪には、作品のタイトルにもある椿の花が飾られており、花と散る儚い運命を暗示するかのようです。
2-2.ミュシャがデザインした衣装
舞台「椿姫」において、ミュシャが担当したのはポスターだけではありませんでした。
舞台美術やサラ・ベルナールが身につける衣装、ジュエリーまでも手がけています。
ポスターに描かれたベルナールが纏っている衣裳が、まさしくミュシャがデザインしたものです。
このことからも、サラ・ベルナールがミュシャに対して絶大な信頼を寄せていたことが伝わります。
3.ミュシャのその他の代表作
ミュシャは、歴史に残る作品を多く制作しています。
「椿姫」以外の代表作を見ていきましょう。
3-1.ジスモンダ
ミュシャにとって出世作となった作品が「ジスモンダ」です。
椿姫と同様に、サラ・ベルナールが主演する舞台のポスターでした。
実は、別のグラフィックデザイナーに依頼する予定でしたが、連絡が取れなくなったことから、急遽ミュシャに白羽の矢があたり担当することになったといいます。
舞台作品の意図を汲み取ったデザインに仕上がっており、サラ・ベルナールからは高く評価されました。
ミュシャは、この作品を機にサラ・ベルナールと契約を結び、6年に渡って彼女に関連する作品を手がけています。
3-2.四季
春夏秋冬、それぞれの季節を女性に見立てて表現した作品です。
1896年に制作され、ミュシャにとって初めての装飾パネルとなりました。
どの季節にも女性と植物が描かれており、ミュシャの特徴がよく表れています。
また、季節によって女性が身につけている髪飾りが変えてあり、細かな点に配慮されたことからも高い評価を得ました。
3-3.ジョブ
煙草用の巻紙を販売する会社「JOB」の商品用ポスターとして描かれた作品です。
煙草を吸う女性が大胆に描かれ、その背後に「JOB」という文字がデザインされています。
当時は、煙草といえば男性の嗜好品というイメージが一般的でしたが、このポスターではあえて女性を象徴するデザインが採用されました。
これまで男性の顧客がほとんどだったJOB社に、新しい風を送り込んだ作品といえます。
4.まとめ
今回は、ミュシャの代表作から「椿姫」をご紹介しました。
「椿姫」は、仕事上の素晴らしいパートナーでもあり、盟友でもあった女優サラ・ベルナールと手がけた作品のひとつです。
ミュシャは、常に舞台作品の内容をしっかりと踏まえつつ描いており、サラ・ベルナールが高く評価するポイントでもありました。
それでいて大胆なデザインは、現在も多くのファンを魅了しています。