ゴッホが描くモチーフの一つとして「糸杉」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
糸杉がメインに描かれた作品から、よく見れば糸杉の存在に気づくような構図まで様々ですが、たった10年という短い画家人生の中で多数登場しています。
今回は、そんなゴッホの代表的な題材である「糸杉」に注目してみましょう。
1.ゴッホの描く糸杉の意味
ゴッホは、信頼していた弟テオに「いつも糸杉に心惹かれている」という気持ちを伝えていました。
それだけ、ゴッホにとって糸杉が重要な存在であることがわかります。
頻繁に描かれた糸杉の意味について考えてみましょう。
1-1.死のオベリスク
ゴッホは、糸杉の形を「オベリスク」に見立てていたといいます。
オベリスクとは、古代エジプトにおいて建設されたモニュメントです。
また、糸杉には「死」や「絶望」といった意味があり、墓地に多く植えられている樹木でもあります。
ゴッホが糸杉に「死」という意味を込めたという記述はありません。
しかし、精神的に落ち込む時期の多かったゴッホにとって、糸杉のイメージはマッチしていたのでしょう。
1-2.ひまわりから糸杉へ
ゴッホが描くモチーフといえば「ひまわり」を思い浮かべる方も多いでしょう。
まさしくゴッホの代名詞であるひまわりは、ゴッホが精神を病む前の時代に描かれたものです。
ゴッホは、同じく画家であるゴーギャンと共に暮らすことになっていた「黄色い家」を彩ることを目的としてひまわりを頻繁に描いたといいます。
糸杉が描かれるようになったのは、病に侵され入院をしていた時期です。
死をイメージさせる糸杉に祈りを込めて描いていたともいわれています。
2.糸杉がモチーフとなったゴッホの作品
ゴッホは、多数の作品に糸杉を取り上げています。
その中でも有名な作品を2つご紹介します。
2-1.星月夜
ゴッホの代表作として知られる「星月夜」にも糸杉が描かれています。
ゴッホがその命を断つ前の年に描かれた作品で、渦を巻く夜空に苦悩の影が見られるでしょう。
印象的な糸杉は、ゴッホが入院していた精神病院の窓から見た情景だといわれています。
しかし、実際はゴッホの病室から見える景色に糸杉はなく、別の場所をイメージして描いたのではないかという説も。
いずれにしても糸杉の存在が、この絵の謎を深めています。
2-2.糸杉と星の見える道
こちらも、ゴッホが精神病院に入院していた際に描かれた作品です。
大きく描かれた一筋の道と糸杉は、死期が近づいているゴッホ自身の心を表しているといわれています。
ぼんやり光る星と明確に見える月を分断するように糸杉がそびえ立ち、生と死を分けるように見えるこの作品は、まさしく死のオベリスクをイメージしていると言えるでしょう。
2-3.糸杉
タイトルの通り糸杉をメインに描いた作品です。
ゴッホの人生における有名な出来事「耳切り事件」の後に描かれたといわれています。
事件前は、ひまわりやのどかな風景を描くことが多かったゴッホですが、この作品からもゴッホの心の闇が深くなっていく様子が分かるでしょう。
3.まとめ
今回は、ゴッホが作品のモチーフとして頻繁に取り上げていた「糸杉」について紹介しました。
ゴッホの心情を踏まえながら鑑賞すると、より深くゴッホを知ることができるでしょう。