若手銅版画家として早くから注目を集めていた村上早。
受賞歴も多く、将来活躍が期待される現代アーティストとして人気があります。
今回は、村上早の経歴と代表作を解説します。
1.村上早とは
村上早は、1992年に群馬県で生まれました。
2014年に武蔵野美術大学油絵学科版画専攻卒業したのち、2016年には武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程美術専攻版画コースを修了しています。
先天性の心臓病を患っていたため、幼少期に生死の境を彷徨うような大手術を経験し、そのトラウマから大学に入るまで不安や恐怖を抱えながら生きてきたといいます。
しかし、こうした体験が作品に大きな影響を与え、大学院在学中には、「第6回山本鼎(かなえ)版画大賞展」で大賞に選ばれました。
その後も、FACE展2015(損保ジャパン日本興亜美術賞展)にて優秀賞、VOCA展2016への推薦出展されるなど、才能を存分に開花しています。
作品の題材として「トラウマ」が反映されており、銅版画における銅板を「人の心」に見立て、そこに傷をつけることで「心に刻まれる傷」を表現している点が特徴です。
また、インクを「血」、刷る際に使う用紙を「包帯」「ガーゼ」として作品制作を手がけています。
とはいえ、悲劇的な作品ではなく、どこかストーリー性があるように感じられます。
2.村上早の代表作
続いては、村上早の代表作を3つ紹介します。
2-1.すべての火
「すべての火」は、群馬県立近代美術館主催の「群馬青年ビエンナーレ2017」で優秀賞に選ばれた作品です。
大きく描かれた炎が印象的な作品であり、この炎は「生」と「死」の両方の意味を持ち合わせています。
両親が動物病院を営んでいたことから、幼少期より「生死」を身近に感じていたという村上早だからこそ表現できる作品です。
2-2.かくす
東京国立近代美術館が所蔵している村上早の作品のひとつが「かくす」です。
モノクロで表現される作品が多い中で、「かくす」には華やかなブルーが使われています。
2016年に制作されたもので、線描や面の使い方に大胆さが見られる点が特徴です。
ブルーで表現された「ブルーシート」の中から鳥の足が飛び出ており、一見すると爽やかに感じられる作品の印象を覆します。
2-3.原罪-red bed-
「現在-red bed-」は、2020年に制作された作品です。
従来の作品に見られた動物や顔のない少女のモチーフとは異なり、真っ赤なベッドが大胆に描かれています。
村上早は、ベッドに「女性性」を見出しており、一人の女性である自分自身を反映させているといいます。
彼女は、人間である前に「動物としてのメス」であることに嫌悪感を抱いており、2020年以降より憎しみが強くなったことからこの絵を描いている点が特徴です。
彼女自身、女性であることを受け止めながらも、元々人間嫌いだったことから、その心が大きく反映された作品となっています。
従来の彼女が描く作品と比較すると異質な雰囲気がにじみ出ているため、違和感を感じる方もいるでしょう。
3.まとめ
今回は、村上早の経歴と作品を紹介しました。
幼少期の体験を含め、彼女が持つ「トラウマ」がダイナミックに表現された作品たち。
とはいえ、彼女自身はのびのびと作品を作り上げており、鑑賞者が体験する感覚を楽しみにしているといいます。
展示会も各地で行っており、今後も彼女の作品に出会う機会が増えるでしょう。